4月29日、池袋の東京芸術劇場大ホールへ足を運び、東京佼成ウインドオーケストラ第173回定期演奏会を聴いてきた。指揮はユベール・スダーン。連休中の池袋は人出も多く、劇場周辺もにぎやかだったが、ホールに入ると一転して、落ち着いた空気の中で開演を待つ時間が心地よい。

前半の幕開けは、カミーユ・サン=サーンスの歌劇から、祝祭的な舞曲の場面。もともとは劇中で異国的な色彩を帯びた踊りとして書かれた音楽だが、この日の演奏では、その“官能的で濃密な空気”が丁寧に描き出されていた。プログラムノートにもあった通り、旋律の装飾やリズムの揺らぎが魅力の作品だが、冒頭のオーボエが空間にすっと立ち上がった瞬間、会場の空気が一気に変わる。そこから徐々に熱を帯び、後半では打楽器も含めた全体が渦を巻くように盛り上がっていく。単なる派手さではなく、音色の積み重ねで作られるエネルギーが印象的だった。
続くのはルイ・アンドリーセンのコンチェルト・グロッソ。サクソフォン四重奏と吹奏楽という編成自体がまず面白いが、実際に聴くと、その関係はソリストと伴奏というより、むしろ対話に近い。プログラムにも触れられていたように、明確な古典様式に寄るわけでもなく、かといって無機質な現代音楽でもない、独特の緊張感を保った音楽。
第1楽章は比較的明確なリズムの中で進み、第2楽章では音の間合いがぐっと広がる。そして終楽章では再び動きが活発になり、全体が一つの流れに収束していく。この構成の中で、サクソフォンの4人がそれぞれ個性を持ちながらも、ひとつの声としてまとまっていく様子が見事だった。何より、この楽団の内部から選ばれた奏者たちによる演奏だからこそ、全体とのなじみ方が自然で、音楽が無理なく流れていく。
休憩を挟み、後半はモーリス・ラヴェルの《ダフニスとクロエ》全曲。プログラムノートにもあったように、本来は大規模な舞台作品であり、色彩や響きの変化そのものが物語を語る音楽だ。吹奏楽版で全曲を聴く機会はそう多くないが、今回はその世界をじっくりと辿ることができた。
序盤から中盤にかけては、とにかく透明感のある響きが印象に残る。木管の細やかな動き、金管の柔らかい和声、そこに加わる空間的な配置――途中で客席外から響いてくるホルンやトランペットは、舞台の外に広がる景色を想像させる。編曲作品でありながら、単なる置き換えではなく、吹奏楽としての新しい響きがきちんと設計されていることがよくわかる。
やがて聴き慣れた終盤へ。いわゆる「第2組曲」にあたる部分は、これまで何度も耳にしてきたはずなのに、全曲の流れの中で聴くと、まったく違う意味を持って立ち上がる。積み重ねてきた時間が一気に開放されるような感覚で、音楽の頂点に向かって自然と引き込まれていった。
開演前は、編曲作品が中心ということで、正直なところ少し距離を感じていたのも事実だが、終わってみればその印象はすっかり消えていた。むしろ、作品の本質にどこまで迫れるかという点で、これほど充実した時間はなかなかない。演奏後、プレイヤーの表情がふっと緩んだ瞬間に、やり切った充実感がにじんでいて、こちらも思わず拍手に力が入った。
客席は、いつもより若い世代が多かったように感じる。いかにも吹奏楽関係者という雰囲気よりも、幅広い層が集まっている印象で、ホール全体にどこか穏やかな一体感があった。
華やかさだけでなく、音の積み重ねで心を満たしてくれる――そんな演奏会だった。

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